〜障害のある人もない人も共に生きる地域社会の実現〜

HOME

NPO法人 千葉県障害者就労事業振興センター

小中大

振興センター概要お仕事情報研修会・イベント経営支援施設の情報お問い合わせ

経営力強化相談


目標工賃達成のための計数管理

工賃は、生産・販売活動に係る事業の収入(売上)から経費(費用)を控除した額(利益)を原資としています。利益をしっかりと確保するためには、きちんと売上を得るための管理が重要です。

そのために、ここでは次の2つの点について、基本的な考え方を整理してみます。

【1】 目標工賃達成のための必要売上高 (【印刷用】 PDF 492 KB)

【2】 PDCAサイクルによる予実管理 (【印刷用】 PDF 127 KB)

【3】 価格(自主製品の売価・請負作業工賃)設定 (【印刷用】 PDF 860 KB)

■ 就労支援事業会計

本稿では、工賃向上を目的とした生販(生産・販売)事業を対象とした就労支援事業(会計)の括りの中での管理会計について取り扱っています。その前提となる範囲を右に示します。

 福祉事業(会計)
(自立支援給付事業)
「訓練等給付費収益」
職員人件費
必要経費(事業費、事務費)他
就労支援事業(会計)
  (生販事業)
「就労支援事業収益」
原価(材料費)
必要経費
(事業に直接関係するもの)
工賃(利用者賃金)

*「訓練等給付費収益」は、利用者支援のための運営等の経費(職員人件費や消耗品費、事業所を維持する家賃、水光熱費、修繕費、車両費等)に充てるために給付されるものであり、それ以外の目的に使用することは許されません。また、生販活動から得た「就労支援事業収益」については、生販事業に必要な経費を控除した金額の全てを利用者工賃として支払うべきものです。

福祉事業と就労支援事業は会計上、明確に区分する必要があります。それぞれの固有経費の帰属先を正しく区分し、共通経費についても合理的な基準により按分計算し正しく会計処理されなければなりません。

【1】 目標工賃達成のための必要売上高

(1) 障害者の社会参加を担保する事業所の生販事業

従来の障害者福祉施設には法的にも「儲ける」仕組みは無く、投資のための資本蓄積もありませんでした。現在に至っても、福祉事業所で働く職員には事業で「利益を出す」ということに対する忌避感が、まれに見られます。しかし障害者が地域で自立した暮らしを送るには事業所の生販事業(生産・販売事業:従来言われていたところの「授産事業」)により、工賃の原資となる利益を増やす事は不可欠です。障害者の社会参加ということを言うならば、事業所は経済活動の主体として生販活動に対し襟を正して真剣に向き合い、確かな実践を積み重ねていくことが何より重要なことでしょう。

(2) 損益分岐点を理解しよう

目標工賃を確保する、つまり生販事業が赤字にならないようにするにはいくら売り上げればいいのでしょうか。そのためには損益分岐点について理解する必要があります。
 損益分岐点とは、読んで字のとおり、損と益の分岐点つまりトントンの売上高です。損益分岐点を越えたところから利益が出て採算があうようになります。
 損益分岐点をつかむには、まず経費を固定費と変動費の2つに分けてみます。

◇固定費:
販売や生産数に関係なく一定に発生する費用。売上げがなくても発生する。販売費・一般管理費。具体的には家賃、水道光熱費、リース料、利用者工賃など変動費を除くほとんどの費用。
◇変動費:
販売や生産数に応じて変動する費用。売上げがなければ発生しない。材料費、外注費などの就労支援販売原価。変動費率=変動費÷売上高(事業収入)
 

損益分岐点とは、事業収入=費用の状態であり、右のイメージになります。

グラフ-損益分岐点と安全余裕率

損益分岐点売上高は次の式によって求めることができます。

●損益分岐点売上高=固定費÷(1−変動費率)

また、損益分岐点と実際の売上高を比較することによって、事業所の生販事業の経営体質をつかむことができます。売上高が、損益分岐点売上高をどの程度上回っているかを示す安全余裕率を次の式で求めます。

● 安全余裕率(%)=(実際の売上高−損益分岐点売上高)÷実際の売上高 ×100

安全余裕率が高いということは、実際の売上げが損益分岐点を大きく上回っているということであり、大きな売上げ減がない限り、赤字に転落する危険が小さいことを意味します。

グラフ-損益分岐点と安全余裕率

左に、損益分岐点と安全余裕率をグラフで示します。

【損益分岐点】
売上高線と固定費と変動費を加えた総費用線が交わる点です。売上高がこの点より右側に行くほど利益が多くなり、左側では損失になります。

【安全余裕率】
損益分岐点から離れるほど安全余裕率が大きくなり、安全性が高くなることを意味します。

損益分岐点比率を低く抑えるためには、次の3つの方策が考えられます。

① 固定費を削減する→一般経費のムダ遣いを無くす。
② 変動費率を抑える→仕入れ方法の見直し、ロス削減や商品価格の見直し。
③ 売上げアップ

なかなか利益が上がらない、思うように工賃が上がらないという場合、売上げアップへ手を尽くすと同時に@〜Aのような費用構造も見直してみましょう。

(3) 目標利益(工賃)を達成するための売り上げ

先に述べたとおり、損益分岐点は収支トントンの境目、つまり利益ゼロの売り上げです。そこに利益を加えて計算すれば、目標利益を達成するための売上高が求められます。次の式で目標工賃を支払うためには事業収入がどのくらい必要かを求めることができます。

●目標事業収入=(目標工賃+固定費*1)÷(1−変動費*2)
  (*1) 利用者工賃を除く販売費及び一般管理費
  (*2) 利用者工賃を除く生販事業製造原価

売上と費用の関係を分析することは、目標工賃を獲得するための計画(工賃向上計画)を策定する際に役立ちます。目標工賃を達成するためには、売上と費用それぞれに対して、どのような戦略をとっていけばよいか、数値を目標にして具体的に考えていかなければなりません。

(4) 生販事業の売上管理活動

 事業所の生販事業は、「利用者が、何を、どうやって作るか」ということが起点になっている場合が大半です。しかし、適切な工賃を継続的に確保していくには、その次に考えていた「何を、誰に、どうやって売るか」の優先度を高めることがどうしても必要です。

売れるものをどうやって作るかについての検討は別の機会に譲ることにしましょう。ここでは、その基礎となる持続的な売上の管理について考えます。

売上とは、商品の販売やサービスの提供など事業活動で得られた金額であり、そこから固定費、変動費等の費用を差し引いたものが工賃の源泉である利益です。また、生販事業において売上の増減は、数量(または客数)と単価(または客単価)を乗じて掴みます。

●売上−費用=利益(損失)
 収入>費用→利益  収入<費用→損失
● 売上=数量(客数)×単価(客単価)

従いまして、適切な利益を確保するには、原価となる材料費や固定費、製造ロス、販売ロス(見切り売りの場合の値下げ高も含む)に絶えず目配りし売上原価が4割前後を上回ることのないようにします。

また、売上の維持・拡販には、数量(客数)の増減要因(お客様の支持が得られているかどうか)、単価(客単価)の増減要因(商品に魅力があるかどうか、陳列や接客がきちんとできているか)について、絶えず検討していくことが肝要です。

(5) 請負作業の人時管理活動

請負作業では製造原価がほとんど発生しないため、いかに効率よく人を動かし、多くの売上、利益を確保するかがポイントとなります。効率性をはかるには人時(にんじ:一人が一時間かかる作業量)を使った指標があります。

●人時売上(一人一時間あたりの売上)=売上÷総人時*
(*) 何人で何時間かかってその仕事をしたか

さらに次の式で、売上目標の設定と人時売上金額の目安を求めます。

●売上目標=工賃×利用者数
●目標人時売上=売上目標÷月次の総労働時*
(*) 利用者数×1日あたりの作業時間×作業日数

この仕事を受けるべきか、この仕事はいつまでに終えるべきかなどについては、常にここを意識して作業内容と管理を考える必要があります。

それでは、次に仕事を受けるか、受けないかの判断について次の例で考えてみましょう。

売上目標:20,000円×10人=200,000円とし、
総労働時間:10人×5時間×20日=1,000時間
人時売上:20,000÷1,000=200円→1人1時間で200円稼げる仕事を目指します。

作業単価×数量:4円×8,000セット=32,000円の仕事を受注する場合、
全員でやるとするならば1日の労働力は5×10人=50人時
1人1時間に200円稼ぐことを目標とすると1日10,000円分の仕事をすることが必要です。
32,000円の仕事なら32,000÷10,000=3.2日で終わらせなければ目標に達しません。
受注する際には、1ロットを4日以内でできるかどうかが一つの判断材料です。


【2】 PDCAサイクルによる予実管理

(1) 成り行き管理を脱し、工賃向上計画を達成するためのPDCAサイクル

障害者福祉事業所は、福祉的就労という形での生産・販売活動を行い、一般の消費者あるいは企業・官公庁等の取引先に対し商品・サービスを提供し、対価を得ています。福祉事業所であっても社会の中で経済活動を担う主体であり、そこで支払う工賃により利用者の社会参加を支えています。とりわけ就労継続支援B型事業所においては2012年度より「工賃向上計画」の策定が義務づけられ、その達成が強く望まれています。

しかし、ただやみくもに努力するという意識だけでは工賃向上計画に定めた目標工賃を達成することは困難です。目標を達成するための計画を立て、それを確実に実行していくことが求められます。成り行き管理では、目標達成期限が来てようやく達成できなかったことに気づくことになりかねません。このような成り行き管理から脱皮し、事業活動を管理するためのプロセスがPDCAサイクルなのです。

(2) PDCAサイクルとは

PDCAサイクルとは、Plan(計画)、Do(実行)、Check(確認)、Act(改善)のそれぞれの頭文字を並べたものです。

A(改善)の結果を踏まえて次のP(計画)に活かし、D(実行)、C(確認)、A(改善)につなげていく。PDCAPD・・・と繰り返す、という意味でPDCAサイクルと呼ばれ、計画された活動を確実に行い、目標達成を実現するためのプロセスを示しています。

(3) 予実管理(計画と実績の比較検討)

施設長等の事業所責任者が中心となり、事業所全体の目標を達成するためにPDCAサイクルを回していきます。すでに工賃向上計画を策定しているB型事業所以外であっても、中長期の目標を、職員だけでなく利用者や利用者家族とも共有することが好ましいことです。

図-PDCAサイクル

次の表では、3年間の年間工賃原資額と初年度の事業別の月間工賃原資額を目標値として設定しています。事業所全体の目標額を達成するための事業別の内訳は、D(実行)の主体である各事業責任者とともに設定することが、参画意識を得、実現可能性を高めるために必要です。また、C(確認)では、単に数値だけを見て叱咤激励するのではなく、各事業責任者とともに達成できた理由や達成できなかった理由を深く掘り下げ、A(改善)につなげることが重要です。

1年目 2年目 3年目
900万円 1,100万円 1,400万円

【初年度計画・実績】

計画 実績 達成率 製菓事業 請負作業
計画 実績 達成率 計画 実績 達成率
4月 80万円     60万円     20万円    
5月 70万円     40万円     30万円    
6月 65万円     25万円     30万円    
7月 60万円     20万円     30万円    
8月 50万円     30万円     20万円    
9月 60万円     40万円     20万円    
10月 70万円     40万円     30万円    
11月 100万円     60万円     40万円    
12月 110万円     70万円     40万円    
1月 90万円     60万円     30万円    
2月 85万円     65万円     20万円    
3月 80万円     60万円     20万円    
合計 900万円     570万円     230万円    

通常、事業所では複数の事業(作業種目)に取り組んでいます。上記の事業所全体のPDCAは、それぞれの事業責任者が中心となり各事業別にブレイクダウンしたPDCAも回します。そこではより具体的な活動方針や実績の評価を行います。

(4) 全員が一体となって主体的な目標達成への取り組み

工賃向上計画を着実に進めるに当たっては、事業所の課題や目標を関係者が共有し、それぞれが自らの役割や責任を自覚し、管理者・職員・利用者が一体となって工賃アップに取り組むことがとりわけ重要です。また、実効性の高い計画として機能するよう、PDCAサイクルを意識し、取組の成果や環境の変化等に応じて、適宜内容を見直していくことも必要なことです。


【3】 価格(自主製品の売価・請負作業工賃)設定

(1) 多角的な視点による価格設定

一般企業においては「値決めは経営である」と言われる位、事業の帰趨を左右する重要な位置を占めています。一方、障害者福祉事業所での生販事業では多くの場合、「利用者が、何を、どうやって作るか」あるいは「利用者に何ができるか」ということが起点になっており、いきおいモノ・サービスを「誰に、いくらで売るか」という意識が欠落しがちです。そのような中で設定された売値や請負工賃には、「どうして?」と首をかしげざるを得ない事例の枚挙にはいとまがありません。

「価格設定」とは単に、材料費等の原価にどれ位上乗せするかということのみを意味しているわけではないのです。障害者福祉事業所にとって必要な視点を整理してみましょう。

@能力視点:
自分たちがどれ位の能力(品質、生産量、技術、コスト競争力等)を有するか
A顧客視点:
お客様にどのような価値を提供したいか
B市場視点:
どこで、誰に、どれくらい販売したいか
C使命視点:
利用者にどれ位の工賃を支払うか

価格設定の画像

これらは、いずれも欠くことのできない視点ですが、これまでは「@能力視点」だけが考慮されて、「C使命視点」は結果としてもたらされるもの、「A顧客視点」、「B市場視点」は、ほとんど視野に入っていない、ということが多かったのではないでしょうか。それでは「工賃向上」という障害者福祉事業所の社会的使命を果たすことは困難です。福祉事業所での生販事業が利用者の社会参加を担保する活動であるとするならば、いずれも大事な視点です。

自主製品の販売にとって、とても重要な課題は、「福祉」への理解を前提とした事業所周辺の狭い範囲のみを対象とした、福祉の世界で自己完結する流通を脱するということ、つまり顧客のニーズを上手に汲み取る「A顧客視点」をどのように確保するかということです。顧客志向の価格決定では、一般的には次の3通りの戦略を考えます。(「現代マーケット概論:坂本秀夫」より)

  1. @価格にとらわれない高額所得者層や革新的な消費者層をターゲットとした場合の高価格戦略。
  2. A価格に敏感な一般消費者を対象にした低価格戦略。市場への浸透を図る価格戦略等があります。
  3. B価格にこだわりを残しながらも、ワンランク上位の製品やサービスを求める人々を対象とした中間価格戦略。

商品力・サービスの品質や供給能力を睨みながら、どのような顧客を対象とするかを想定しそれに見合った戦略を検討します。

独創性に富む商品・サービスであれば市場での強い価格支配力を持つことができます。そうでない場合、市場の動向を無視して価格を決めるわけにはいきません。スーパー、小売店、デパート等での価格動向に注視する「B市場視点」は、価格設定には不可欠です。

また、商品やサービスを消費者や企業・官公庁等の需要家に届けるに当たっては、全てを事業所独自でやるには限界があります。数量や頻度が増えるほど共同での取り組みや仲介者の存在により効果的な生販活動が展開できます。従来、この商品・サービスの流通・仲介に係わるコストを見落としがちでした。この部分は、今までの福祉の視点では、往々にして「善意」によって賄われるものでした。しかし、誰かがコスト負担する「善意」に依存するのみでは、生販事業が継続して発展することは期待できないのです。

「C使命視点」は、福祉事業所の特異な視点と思われるかもしれませんが、「工賃」を「利益」と読み替えれば、商品・サービスを社会に提供するに当たり、その価格を決定するという意味では何ら特別なことではありません。

以上のように自ら定めた工賃向上計画を敢然と推進し、目標工賃達成のためには、生販活動の貨幣的評価=価格設定をしっかりと行っていくことが求められます。

(2) 価格設定の基本的方法

@原価加算法:コスト志向の価格決定には、原価加算法があります。これは、単位費用に、ある一定の利幅を加えたものを価格とする方法です。

● 価格=変動費+固定費+一定の利幅

(変動費と、固定費については「【1】−(2)損益分岐点を理解しよう」を参照)

このように、原価加算法は、簡単な方法であるために、さまざまな事業形態で幅広く利用されていますが、需要競争などの市場要因を無視してしまうという欠陥をもっています。しかし、価格設定のC使命視点を考慮したとき、適切な工賃を確保するには、まずこの方法で検討してみましょう。

A目標利益法:これは、損益分岐点分析を応用した、コスト志向型の価格決定で、目標販売量のもとで総費用に対するある目標利益率を与えるような価格を決定するものです。

● 価格=総費用(1+目標利益率)目標販売量

利益をあげるには、損益分岐点以上の売上高が必要となります。「【1】−(2)損益分岐点を理解しよう」を、もう一度見て下さい。

(3) 請負作業工賃設定

請負作業の工賃見積もりや入札に応じる場合、「仕事がないことほど辛いことはない」との理由で、相手の指し値に無条件に応じたり、採算がとれない額で応札したりすることが見受けられます。本当に辛いのは事業所職員が仕事が無いことで支援手段を失うことですか、それとも利用者が世間のアルバイトの日給にも及ばない月額工賃を強いられることですか。無闇に低単価の作業にとびつくことは、一般企業の従業員の雇用や給与に影響を及ぼすだけに終わることもありえます。

適切な作業工賃の判定法については「【1】−(5) 請負作業の人時管理活動」を参照して下さい。

支援費で販管費の相当部分をまかなえるという障害者福祉事業所による生販事業のアドバンテージはしっかりアピールしましょう。一方、「障害者の仕事の対価はこの程度」というネガティブな思考を断ち、利用者が果たす役割に応じた対価を堂々と打ち出すことを忘れることがあってはなりません。

▲ページトップへ

過去の情報はこちら

 

Copyright (c) 2009 千葉県障害者就労事業振興センター all rights reserved.